これっぽっちもやましいことなどないけ れど、タクの顔を見た瞬間、彼と仲良く していた高校時代を思い出し、同時に、 彼の大事な人を自宅に何日も留まらせて しまったことに、今さら罪悪感が湧いて くる。
大学入学前、忙しいウチの両親に代わ り、アパートへの引っ越しを友達数人に 手伝ってもらった。そのメンバーの中に タクもいたから、彼がこの場所を知って るのは当然だった。
「湊、あけてくれ!」
「今、開ける!」
奥で里桜が「タク来たの!?ウソ!」 と、驚きつつも喜んだ顔ではしゃいでい たが、それを無視して俺は扉を開けた。 難しい顔をしたタクに、
「ごめんタク。里桜、ちょっと前からこ こにいるんだ」
俺の方から事情を話すと、タクの表情は 柔らかくなった。
「こっちこそごめんな、湊。お前はそう いうやつじゃないってわかってんのに、 里桜からここにいるって連絡もらった 時、頭が真っ白になって……。二人を 疑った自分が恥ずかしい。
俺達のゴタゴタに巻き込んでごめんな。 どうせ、里桜の考えたことだろ?」
「『どうせ』って何!?」
里桜が割って入ってきた。タクと俺のや り取りをずっと聞いていたらしい。
タクは里桜の手を引き、「帰るゾ!湊に 迷惑かけるな」と、アパートを出ようと した。が、里桜はとっさに俺の手を強く 取り、離さない。
「里桜っ!タクとちゃんと話し合っ て……」
「タクがいけないんだよ。私のこと放っ ておくから!」
「しょうがないだろ、バイトで疲れてん だから。ちょっとくらい優しいこと言え ないの?」
まずい。二人とも本気で熱くなってる。 俺には……第三者には止められないケン カだと思った。


