彼女のすべてを知らないけれど


「気に入らなかった?勝手に選んで、困 らせたならごめんね。無理に着なくても いいから……」

「着るわよ」

「えっ……」

「でも、着方が分からないから手伝って ちょうだい」

「いや、それはちょっとマズくない?着 てくれるのは嬉しいけど」

っていうか、俺だって女の子の浴衣の着 せ方なんて知らないよ!

「初日に、あなたの服を着せてくれた じゃない。その要領でやってくれればい いから。頼むわよ」

「えっ、そんなこと言われても困る よっ。あれは自分が着慣れた服だったか ら大丈夫だったのであって、浴衣は別枠 というか……」

いや、あれはあれで大丈夫ではなかった んだ!未成年の少女に服を着せる男子学 生の気持ちを、ちょっとでいいから察し てほしい!

「普段着も浴衣も、同じ『人間が着るも の』っていうジャンルでしょ?何をそん なに戸惑っているのかしら」

簡単に言ってくれる……!こういう時俺 は、彼女が元は猫だったのだと強く思い 知らされる。

彼女は、人間界で何年か暮らす人々に比 べ、だいぶ感覚がズレている。正論や一 般論なんて通じやしない。

色んな意味で追いつめられた俺を助けて くれたのは、

「あら、困ってるみたいね、湊」

「母さん!?」

実家に住んでいる俺の母親だった。いつ の間に入ってきたんだ!?

玄関から、俺達のやり取りを見ていたら しい。