「おはよ!湊!」
然に朝の挨拶をされた。彼は、これから講義が行われる大教室の、一番後ろの席にいた。俺の席を取るため、自分の隣の席にカバンを置いて場所取りしてくれている。
教室の中は、ほとんどの席が学生の頭でびっしり埋まっている。
俺にとって、ウィンクルムと過ごすアパートでの時間が自分の日常って感じがするから、こうして講義開始前の大教室を見渡すと、何となくだけど、現実じゃない現実の中に突っ立っている気分にな
る。
ウィンクルム、ちゃんと留守番してくれてるかな?合鍵持たせてるし、外に出かけるなーなんて言えないけど、あまり危険なことはしてほしくないなと思っている。人間の体に慣れてきた今だからこそ、ちょっと心配になる。
彼女はとても器用で、料理や掃除なんかも自主的にやってしまうから、無理させてないかなってヒヤヒヤしてしまう。一回、俺がやってるポスティングのバイトを自分もやりたいと彼女が言い出した時はビックリした。
居候(いそうろう)しているということで気を使ってるのかもしれないけど、俺はウィンクルムに家政婦的役割を担わせるために同居を決めたわけじゃない。自分ちに居る気で、もっと気楽にしてほしいと思っている。
「で、湊も、もちろん来るよな?」
「え?」
何の話だ?俺はきょとんとしてしまう。然の隣に座ってから、ずっとウィンクルムのことを考えてて、彼の話を全く聞いていなかった。


