「…ごめん。やっぱなんでもない。
帰るか、日暮れそうだし」
怖いんだ、勝手に離れられることが。
だからこれ以上踏み込んだこと言いたくなくて、俺は窓から背を離し、何事もないフリしてまた内田との溝を広げた。
広がると知ってて、広げた。
その帰り道、お互い無言で
内田は俺の後ろをトボトボ歩く。
頼りない影が、どんどん伸びる。
だけど、その影が混じり合うことはない。
「…ん」
「…え」
突然、後ろを歩いてた内田が口を開いた。
俺は足を止め、内田の方に振り返った。
オレンジ色の夕日が内田に影を落とす。
よく見ると、肩が震えていた。
「ちゃんと、好きだもん」
「……え、は?」
いきなりこんな土手の場所で…え?
内田の小さい口が再び微かに動く。
「嫌いになんかなるはずない…っ、好き。あの時から変わらず、今も…っ好き。好きだよ小野くん大好きなんだよーっ」
「わ、分かった! 分かったから一回黙れお前! 周りのお年寄りの微笑ましい表情がなんか気恥ずかしいから!」
俺が好きだと何度も言い続ける内田。
溢れだす涙を拭いながら、尚も言い続ける彼女に、俺は固まった。

