「…!」

「あれ?」



顔を上げた俺の目の前に立っていたのは
昨日の変な奴だった。



「おはよー
 こんなところで何やってんの?」

「……」



反応に困り黙っていると
教室がやけに
ざわついているのに気付いた。



[…ねぇ、あれ誰?]

[ほら、あの昨日の…]



[うわ、昨日のあいつじゃん]

[あれからいなかったよな]

[サボってたんだろ]

[初日からとか…荒れてんな]



やっぱり
クラスの奴らからの印象は最悪だった。



「…ちっ」


舌打ちをして
教室の方をひと睨みすると
辺りは一気に静まり返った。



「…ほーら!
 怖い顔しなーい!」


そんな空気を気にする事もなく、
あいつは明るく言った。


「昨日は体調悪かったんだろ?
 具合悪そうだったもんなー」

「…は?」

「ほらほら!
 そんなとこ突っ立ってないで
 教室入りなよ!」


そいつにすすめられるままに
教室に入り席につくと、
さっきのあいつの言葉のおかげか
クラスの奴らの空気は
僅かだが和らいでいるような気がした。



こいつ…
最初は空気読めてねーのかと思ったが
俺を助けたのか…?


そう考えると
悪い奴ではないような気がした。



「何ボーッとしてんの?」

「…お前」

「ん?」

「お前名前なんつーの」

「え…あぁそっか
 昨日の自己紹介いなかったんだね。」


俺が小さくうなずくとそいつは
満足そうに笑った。


「俺はね
 渡井充(わたらいみつる)
 よろしくな!」


そういうと渡井は手を差し出した。


「よろしく」


俺はそれだけ言うと
その手を無視して準備を始めた。


「おいおいー
 無視すんなよー
 充ちゃん悲しいっ!」


そういうと渡井は泣きまねをし始めた。


「…っく…ははっ…」

「ん?」

「ははっ…あははっ…」

「え、なに?
 そんな笑うとこ?」

「お前っ…面白ぇーのなっ…」

「(´・ω・`)」

「…くくっ…はぁーっ」


俺はひとしきり笑うと
涙を拭って顔を上げた。


「俺は斉藤要(さいとうかなめ)。
 よろしくな、渡井。」

そういうと
少しだけ笑ってみせた。


「お、おぉ…!」

「…なんだよ?」

「お前そんな風に笑うのな!」

「はぁ?
 俺だって人間なんだし
 笑うに決まってんだろ。」


俺は呆れたようにそう言った。


「いやー
 最初はちょっと怖い人かと思ったけど
 案外いい奴じゃんねー」

「は?」

「いやっ…
 やっぱ怖い人かなー…」

「ってかお前
 俺の事怖いって思ってたんなら
 なんで話しかけたんだよ。」

「ん?
 だって気になるじゃん。
 誰とも話そうとしないし。」

「あー…それだけ?」

「おう!それだけ!」



…聞くんじゃなかった