薬指に嵌められた小さなダイヤモンドの指輪。

それはケイタからの贈られた愛の印だ。


力士は感嘆の溜息を吐いた。


「いいわね…ありす。
絶対幸せになりなさいよ。
私も煙草をやめて、もう一度、歌の道で頑張ろうかなあ…」


「そうですよ!
姫さんなら、出来ますよ」


「今日はもう、仕事なんてする気になれないわね…
インターナショナルランドマークホテルでお茶でもしよう?ケーキ食べよう。
私、奢るから!」


「え、でも…」


「いいって。
それくらいのお金あるから。
ご祝儀代りよ。披露宴するなら、
私、アヴェ・マリア歌おうか?」


「披露宴なんてしないですよ~
お金ありませんから」



私と力士は喫煙ルームを後にした。


エレベーターを使い、外に出る。


周りは摩天楼のようなビルが立ち並ぶ。


アスファルトの道を笑いさざめきながら、力士と並んで歩いていると、
ふわりと柔らかな南風が
私の頬を撫でた。



力士がアヴェ・マリアを口ずさむ。


その歌声が風に乗る。


私は小さく切り取られた青空を仰ぎ、思う。


…こんなに優しい風が吹くのなら、
このコンクリート・ジャングルも
悪くない、と。