結局、祐介へのメール返信はしなかった。

 なんと書けばいいか解からなかったし、何を書いてもウソ臭い。

 母への返信はいつもと同じだ。

『帰ってから改めて連絡するから。』

 そしてたぶん、いつも通りに喧嘩になる。


 おばちゃんの事があるから、母は祐介との仲には大反対なのだ。

 おばちゃんも苦労して、泣かされて、その度に母に電話で愚痴をこぼしたのだと言って。

「ねぇ、紗江。どうしてわざわざ苦労すると解かってる道を選ぼうとするの。」

「彼の事、好きなんだもん。」

「以前にお付き合いしてた人は? 今はどうなの?

 忘れちゃったんでしょ。

 だったら祐介さんだって、すぐに忘れられる、そういうもんじゃないの?」

 お母さんは何も解かってない、反発心だけで頑なになっていた。


 母のいう事はもっともだ。

 残酷だけど、真実だ。


 どんなに好きだった人も、時間が過ぎれば美しい想い出にしてしまえる。

 色褪せた写真を見るように、この苦しみもほろ苦いものに変わってしまう。

 その方が楽だって解かってるけど。


「紗江。

 お母さんね、おばちゃんが苦労してるのを見てきたから、言ってるのよ。

 こんな事、言いたくないけど、おじさんが昔はどんなに酷い男だったか知ってるから……、」

 言葉を濁して、わたしが幼いうちにはほとんど聞かせる事がなかった叔父さんの話を母はした。

 いつもお土産を持ってきてくれて、優しい叔父がわたしは好きだったから、叔父の悪口を言うそんな時の母がひどく気に食わなかった。

 苦い言葉を言う人は、真実を告げる人だ。

 自分が嫌われてもいいと、覚悟を見せられる人は。

「貴女に、幸せになって欲しいのよ。良枝みたいに苦労させたくないの。」

 良枝おばちゃんは、母から見たら不幸に見えたんだろう。