「やっぱり美人のお酌した酒は旨いよ、」

 にへらにへらと笑っているお偉いさんに、お愛想笑いで返しておいて、そそくさと席を立つ。

 お酌係は忙しかった。


 そのうちに、舞台では大カラオケ大会が始まった。

 それが合図のように酔っぱらい達は銘々が手酌に、お酌係はお役御免となった。

 ホッ、とした。

「ご苦労様、」

「そちらこそ、」

 すれ違いざまに、同じくお酌係にされていたミス企画室とねぎらい合って別れる。

 やっぱり美人は浴衣姿も絶品で、後ろ姿にさえ色香が漂っていた。


 完全に呑み損ねてしまったと気付いたのは、自身の席に戻った時だった。

 敬子が潰れて横になっていた。

「ちょ、敬子、ちょっと……!」

「もぅ無理、ボクはぁ、もぅ呑めましぇーん、」

 呂律の回らない舌がぼそぼそと、聞いた覚えのあるセリフを言った。

「しょうがないなぁ、もうっ。」

 なんとか座らせたところで、隣の男性社員が手を貸してくれた。

「あっ、どうも。」

「いえいえ、なんか調子に乗って飲ませすぎちゃって。すいません。」

 抱え起こすのを手伝ってくれた新人君に礼を述べると、そんな告白をして彼はへらりと笑った。

 ビール瓶がごろごろ転がってるんですけど。

 まるで酔ってなさそうだった。末恐ろしい。


「これで抜けさせて貰います。誰かに聞かれたら、部屋へ戻ったと伝言お願いできます?」

「あっ、僕、送りましょうか? 一人じゃ大変でしょう?」

「大丈夫です、この子も自力でなんとか歩いてますし。」

 丁重にお断りして、若手社員くんに後をお願いした。

 送りオオカミとかを警戒したわけではないけれど。

 舞台の天井付近に大きな時計が掲げられていて、短針は八時と九時の間くらいだった。