宴会場はとにかく広くて、一番奥までどのくらいあるか見当が付かない。

 そして、どこまで神様は底意地が悪いのかと思わせる都合の良さで、またしてもわたし達の席と課長の席は二人挟んだだけという近さだった。

 正確に言うなら、向かい側二軒隣に坂崎課長。

 これ以上のニアミスはさすがに避けたかったから、視線が合わないように少しナナメを向いて座った。

「紗江ー。どっち向いてんのよぉ、舞台はあっち。」

 向いた方向、わたしの隣に座る敬子が座布団ごとわたしの身体を逆に向けた。

 こ、こいつ、もう酔ってる。

 課長がばっちり視界に飛び込んだ。


 乾杯の音頭を待たず、会場に集まった人から先着で呑み始めていた。

 最初から、無礼講とのお達しはあったものの、本当にみんな遠慮がなかった。

 釘付けになってしまった視線の先に、やっぱりでほろ酔いになってる課長が居る。

 ヘラヘラ笑って、なんだか子供のように無邪気な顔でご近所さんと談笑していた。


 浴衣は反則だ。

 胸元だけでなく、ヘタすると腹筋までが見え隠れしている紺の合せが煽情的だった。

 あぐらを掻いた素足は筋肉質で、裾を割って覗くチラ見せの太腿がなんともいえない、気恥ずかしさを誘ってくる。

 隠せよ、もう。

 陰になった裾の合わせ目が不埒な妄想を掻きたてて、わたしは慌てて視線を逸らした。

 パンツは履いてるだろうけど。ムラムラしてしまった。


 課長は隣近所との会話に夢中で、わたしにはまだ気付いていない様子だった。

 ムラムラがムカムカに変化した。

「えー。皆様。」

 舞台に、幹事が上がっていた。

「盛り上がってますかー?」

 第一声がそれだった。


 酔っ払いになった社長が、訓示からの愚痴り挨拶をぐだぐだと述べ終え、幹事がふたたび司会進行で場を仕切り、余興のコーナーに突入。

 お調子乗りの新人君がパンツ一丁で裸踊りを、局長はノリノリのエアギターを披露した。

 敬子もほろ酔い気分で出来上がっており、手当たり次第と談笑しまくっていた。

 こういう時は酔ったモン勝ちだ。

「美作ー!」

 専務が遠くから呼ばわっている。

「はいはいー!」

 慌ててビール瓶二本を抱えてそちらへ急ぐ。

 わたしは迂闊にも負け組に入ってしまって、呼ばれるままにお偉いさんの間で仲居をする羽目に陥った。

 なんで皆、わたしの名前を知ってるんだ。


 迂闊だった女子はわたし以外にも何人か居て、すれ違うたびにお互いで苦笑いを浮かべあった。

 もともとわたしはそんなに飲む方じゃない、忙しいくらいでちょうどいいかもと思う事にした。