『女は子宮で考える』とは、どこの誰が言ったんだったか。

 思い出せないまま、わたしは揺れる観光バスの窓から外の景色を眺めていた。

 黄昏れていく夕日がビルの谷間に落ちていく。

 ちょっとユウウツ。


 見境いのない男をカレシに選んだのは、自分自身に見る目がなかったせいだし。

 だけど、それを周りにどうこうと言われて責められるのは違うんじゃないかと思ってしまう。

 心配してるなら、何を言っても許されると思ってる友人たち。

 傷付いたんだからね。


 美作と書いて、ミマサカと読むわたしの名字。

 美作紗江。

 商社に勤める、どこにでもいる二十四歳の女子社員だ。


 バスはのろのろ運転の首都高をどうにか抜けて、東名高速へ入った。

 昼夜を問わず首都圏は混んでいた。

 車窓から見える景色は近い位置のビルばかりだから、大急ぎで走っていて実に忙しい。

 わたしはと言えばその忙しさまでがこちらを責めているように感じてしまって、早く都会から離れたかった。

 行き先は北陸だ。

 早くのんびりした景色に溶け込んで、日常を忘れてしまいたい。


 ビルはどんどん背の低いものに代わり、住宅地なんかが混ざり始めて、やがて、緑がそこへ加わるようになった。

 そのうち人の住む地域じゃなくなって、高速道路は山の間を走りだした。

 トンネル、山、トンネル、山。

 都心を離れたなら離れたで、またうっとおしい景色が続いた。


 付き合いだして二年になるカレシの祐介が最初の浮気をしたのは、

わたしと付き合ってからちょうど一週間後のことだった。

 わたしがどんなにイイオンナかを確認したくて別のオンナと付き合うんだよ、

なんて理屈で、平謝りするから許してしまった。

 もちろん、友人たちにはバカだバカだと責められた。

 きっと、あの時にあっさりと別れておけば良かったんだと思う。

 今さらになって、未練たらしく迷うことなどなかったんだろうなぁと、そう思う。

 祐介は、二度としないと誓約書まで書いたくせに、その誓いをあっさりと破った。