「軽音楽部」
と書かれた札が下がった部屋の前に立っている真子は、深く呼吸した。



「ふぅ…」



なかなか、入る勇気が出ない。
もう、五分も立ち尽くしている。

また、今度にしようかな。
でも、このままじゃ一生入部出来ない気がする。



「ねぇ」



突然後ろから聞こえた、澄んだ声に、真子の肩はビクッと跳ねた。



「君、軽音楽部に興味あんの?」


「…は、い」


「ねぇ、こっち向いてよ。」



臆病な真子は、振り返る事ができなかった。すると、いきなり肩をガシッと腕で掴まれ、くるりと体を回された。



「ちょ、ちょっと! 」



真子と声の主はバッチリと目が合った。
それと同時にこ真子の目は大きく見開き、輝いた。


「部長の、綾瀬 翠(あやせ すい)でーす。
よかったら、入ってって?」


黒々として、吸い込まれそうな瞳、薄く広口角がキュッと上がった唇、白く綺麗な肌、赤褐色の髪。

そして何より、澄んだ声。

み全てがこの人のミステリアスでノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。



急に心臓がドキドキうるさい。
もしかして、



これが一目惚れというものなのだろうか。