「ご用が無いのでしたら、ご用を作らねばなりませんね!」
「……え?」
「せっかく来訪してくださったのにご用がないとは残念ですから!」
(……いや、ご用ってわざわざ作られるものなのか…?)
「あります、ありますよ!あなたにうってつけの御用が!」
ドードー鳥は興奮した様子で声を荒げる。
上品な香水の香に混じって、僅かに獣の匂いがした。
ドードーが、袖から伸びる羽に覆われた手を那智の肩におく。
二、三度自己満足気味に頷いていきなりグイと那智につめよった。
「……!」
くちばしが那智の鼻先にぶつかりそうになる。
「あなたは主を尋ねるといい!それをあなたのご用にしましょう!」
「主…?」
この屋敷の主人ということだろうか。
「ええ!主を探すのは手間がいりますからね。これであなたにはご用ができました!ようこそいらっしゃい!」
「いや、俺は……」
「ようこそ、ようこそ!」
どうやら、もはや何を言っても無駄なようだ。
けれど、ご用を押し付けられることによって那智はこの屋敷への訪問を許されたらしい。
(なんだか知らねえけど……今のうちにチェシャ猫たちを探すか)
「……わかったよ。主に会えばいいんだな?」
「ええ!探してください、見つけてください」
ドードーはしきりに同じ言葉を叫ぶ。
探してください、ということは相当広い屋敷なのだろうか。
(どちらにせよ、進む他ないな…)
那智は絨毯の続く廊下を歩き始める。
「ようこそ、ようこそ!」
ドードーの叫びが那智の背中に響くが、那智が遠くなるにつれやがてそれも聞こえなくなった。
ギイ ギイ……
風もないのに、シャンデリアが揺れる。
那智の目線では見えなかったドードーの背中がぼんやりと灯し出される。
「探してください、見つけてください……」
ドードーがケタケタと不気味な笑みを浮かべる。
その背中には、爪痕のような凄まじい傷があった。
ドス黒い血がダラダラと垂れ流され、真っ赤な絨毯に染み込む。
「ようこそ…ようこそ…」
ドードーの声が誰もいない廊下に虚しく響き、消え入っていく。
那智は廊下の奥へ奥へと、吸い込まれるようにして消えていった。


