「こ…こわっ……何怒ってんですか、那智さん…」
「お前見てるとすげえ疲れるんだよ!」
「疲れるのは那智じゃないのー?」
「うるさい、糞猫」
「ぼく、チェシャ猫」
カタカタと猫の顔が上下に動く。
どうやら彼なりに笑っているつもりらしい。
「スージー……」
「聞き覚えないか?」
少し考えて、女の子は残念そうに首を振った。
「でも、なんだか少し愛しくてとても優しい気持になる名前です」
小学三年生ほどの児童が口にするには少々大人びた形容詞だとは思ったが。
それは、記憶を失う前、スージーと呼ばれていたことを少しは覚えているからだろうか。
「よかったね。すしえ」
どうやら猫は意地でも、すしえ、を貫き通すらしい。
「はい!これも記憶を取り戻す第一歩ですよね」
「スージー、ね」
確かに、整っていて綺麗な顔立ちをしているが、目や髪や肌の色は日本人のもののように思うが。
しいて言えば、少し鼻が高いぐらいで。
日本人離れしたその名前に、何ごとも真面目に白黒つけたがる那智はむずかゆい違和感を覚えたが、
本人が丸く収まってるならそれでいいか、と諦めた。
「私、スージーです!よろしくお願いします。記憶が戻るまで、お供させていただきますっ」
スージーはぺこりと頭をさげて、柔らかい微笑みをうかべた。
「よろしく、すしえ」
「はいっ!」
(すしえでもいいのかよ……)
呆れていると、女の子がひょいと那智に手を差し出す。
「那智さんも!よろしくお願いします」
握手を迫られて、那智はたじろぐ。
しかし、こうなればもう連れていく他なくて。
ハァとため息をついて、仕方なく那智は手を差し出した。
「……わかったよ」
「やったあ!」
女の子はより一層深い笑みをうかべ、嬉しそうに那智の手を握った。


