色が、無いのだ。


那智の目に映る景色。


全てがモノクロ化している。



教室、黒板、先生、生徒、机、シャープペンシル。


その全てが黒と灰と白色だけで着色されている。



(なんだよ……意味わかんねえ)



那智は目をこする。


しかし景色は変わらない。


モノクロ色調に支配された視界。


(俺、なんかの病気になったのか?)



突発性の色盲?

そんな不安が那智の頭をかすめた。


しかし、何かがおかしい。



(俺の体だけ……色がある)



那智は自分の手を見た。


ちゃんと肌色をしている。


紺色の制服も、
栗色の髪の毛も。


ちゃんと元の色彩がある。




(ということは、俺の目はなんともない…)



教室の誰もがモノクロ化の異変に気づいていないようだ。


たった一人、那智を除いて。


(どうなってんだ…?)


モノクロの景色の中で


一人だけ正常な色を保っている


那智だけが、浮いている。


授業は何事もないかのように進んでいく。