水没ワンダーランド

人の波に押されるようにして蒸し暑さの残る街道を後にした那智は、気がつくと自身のアパートの前にいた。


「あれ……?なんで俺、家に……」


無我夢中で走ったり歩いたりしている内に、自宅に帰ってきてしまったのだ。
そして、ここまで来たところで那智はピタリと足を止める。



「っつーか…俺、これからどうすれば……」



なんとかしないといけないとは思うものの、異世界や歪みの話を聞いたところで自分が何をするべきなのかは見当もつかない。


途方に暮れて、ため息を吐く。

そして、異変に気がついた。


「…あ?」


アパートの一室。
那智の住処であるソレの玄関横に取り付けられた窓に明かりがともっている。


孤児院育ちだった那智に、家族は居ない。


孤児院を飛び出してから那智はずっとアパート一人暮らしだ。



なのに、家には電気がともっている。

几帳面な那智は出かける前に何度も電気とガスの消灯チェックをしている。
つけたまま外出するなんてことは今まで一度も無かった。




「誰か……居る?」



空き巣か?それともあの図々しい大家か?

さまざまな可能性を思い浮かべたが、なんだかもっと嫌な予感がした。


那智はアパートへと駆け寄り、階段を上る。


“侵入者”が刃物を持った泥棒でないことを切に願った。