水没ワンダーランド


クイーンが笑う。

そして、うなずく。


「大当たり」




――ゴーン…




ゴーン…




どこからともなく鐘が鳴った。



(見渡す限り、辺りに鐘なんて存在しない)



ああ、これは始まりの鐘なんだと。


幕開けを告げる鐘なんだと。



唐突に、思った。
鐘の音に紛れて時計の針の音もする。



「なんでだよ。なんで、俺だけ……」



潰れるように押し出した声は、鐘の音にかき消された。

クイーンは微笑む。


混乱し立ち尽くす那智をあざ笑うかのように。


いや、それとも。


ようやく幕が開ける物語に胸を躍らせるかのように。



「運命は他人に語られるものではないわ」


鐘の音が鳴り止む。クイーンは静かに告げた。



「なぜあなただけが無事でいるのか。それは那智が自分で気づかなければならないの。ただ一つ言えることは……約束を果たして頂戴、那智」


「約束?」


とたんに、クイーンの足元を小さな粒がチラつき始める。
足だけじゃない、上半身、ついには顔までも。

そう、まるでテレビの砂嵐に巻き込まれていくように。



「クイーン…?」


「嗚呼、残念」


クイーンはそう言うなりイタズラっぽく苦笑した。


クイーンの声もヴヴヴというノイズが混じって、透き通るガラスのように美しい彼女の声が台無しだった。



「もう帰らなくちゃ」



クイーンのつぶやきはもうほとんどノイズにかき消されていた。
クイーンを元の世界へと連れ戻そうとしているのだ。


「なあ、クイーン。あんたの言うことがもし本当だとしたら、俺は……俺はどうしたらいい?」


クイーンが聞こえないフリをしているのは明らかだった。
能天気な鼻歌を口ずさんで、クイーンは黒色の粒子に呑み込まれ消えてゆく。


「さよなら。また会いましょう」


そこでクイーンの声と姿が途切れた。
ブツリと音をたてて、テレビの電源が消えるように。


カチン、と那智の時計が高鳴る。
消えたはずの針が元通りになっていた。