那智は、ごくりと唾を飲み込む。
声が震えた。
「あんたは……知ってるのか?」
「何を?」
パッチリと恐ろしいほど見開かれた瞳で那智を見つめ、女はもったいぶる。
那智は女の腕をグイとつかんだ。
「知らばっくれんな!あんた、何か知ってんだろ…?なんだよ、この街で何が起こってんだよ!教えろよ!!」
女は腕を振り払うこともせず、静かにほほえむ。
しかし、本来ならば安心を与えるはずの優しいソレは言い様のない威圧感を那智に与える。
それは氷の微笑みだった。
「…愚かよねえ。普段はあれだけ偉そうに図々しくそして残酷に生きているのに、"未知"に遭遇したとたんガタガタブルブル震えて動揺しちゃうんだもん。愚かだわ。ニンゲンってとっても愚か。……そう思わない?」
女は滑舌よくスラスラと言い放つ。
まるで元から用意された台本を読み流すように、優雅に。
まるで自分がニンゲンではないとでも言う風に。
「…ッ……」
「冗談よ。そんなに驚かないで?…そうね、何から話しましょうか。けれどもまずはその手を離してくれないかしら?」
那智は、つかんでいた腕を離す。
女は真っ赤なドレスの袖を軽く引っ張って直す。
女の後ろでは、山本とナカジたちが那智を見て口と目を開いたまま彫像のように静止していた。
時を支配されている彼らの瞳には靄が黒く渦巻いている。


