「ゆきちゃん…」


誰かに優しく頭をなでなでされている。


僕はうっすらと目を開けて、そいつの顔を確認した。


やっぱり黒埼だ。


ここは保健室だろうか。


黒埼は僕が起きたことに気づいてないらしく、ずっと頭をなでている。


そういえば、こいつとは長い付き合いだな、と今更ながらに思った。


僕は小学二年のときにこの町に引っ越してきて、黒埼のいるクラスにやってきた。

こいつはそのころから悪ガキだったけれど、うまく馴染めない僕に何かと気をつかってくれた。


「ゆきちゃん」


この呼び方はその頃から。


認めたくはないけれど、一番仲のいい友達は?と聞かれたら、僕は黒埼カケルと答えてしまうかもしれない。


こいつは友達なんて腐るほどいるだろうから、僕の存在なんて思い出しもしないだろうけど。