「さて、疾風。行こうか。これ以上、風歌ちゃんに罪を着せないように。」
俺にも君の気持ちはよくわかるよ。
バスケの才能がある、時雨と疾風。
2人に囲まれて、悔しい思いなら何度でもした。
でも、今の君は目の前の現実から逃げているだけなんだ。
「あぁ。」
俺たちは、部室へと向かった。
この男子トイレから、部室まではそんなに遠くない。
「風歌ー?しぃー?入るぞ。」
「ぁ、うん。」
パッと目に入ったのは、今朝より傷だらけになった時雨。
手首だけじゃない。腕も…足も。
「長袖と、長ズボンもってくるべきでした…。」
悲しそうにそうニコッと笑った。
風歌ちゃんは、すごく驚いてる。
「時雨…こんなに跡ついてなかったよね?私…こんなに」
風歌ちゃんが、同じ言葉をリピートする。
何度も何度も壊れたラジオのように。
「時雨の、体傷つけたらお母さんが怒る…。時雨が疲れて寝ちゃったらお父さんが怒る…」
?
時雨の、体?
これは風歌ちゃんがやったんじゃ…?
「…風歌、多重人格なんです。一人は勉強もできてみんなに好かれていて、あたしのことを嫌っている風歌。最初は瞳って言ってました。でも、風歌の格好なので風歌と名乗ってるようです。二人目は緋月。本当の風歌が、瞳に奪われないように守ってる存在です。三人目は、本当の風歌。小学2年生までの風歌です。疾風と、あたしにくっついてきて、疾風にぃたん、しぃたんって。」
多重人格。思っていた以上に大変なことだった。
「このこと、あたししか知らなくて。だから風歌にも何も言えなくて…。怖くて。」
「時雨、何勝手なこと言ってんの⁈これ以上話を進めたら、あんたも、疾風も」
時雨の目つきが変わる。
もはや、そこにいるのは妹ではないかのように冷たい目だ。
なんだかんだで、風歌ちゃんには、優しい目つきだったのに。
「そうやって脅すことしかできない風歌なんて、あたしの妹の風歌じゃない!好きにすればいい。あたしは負けないから。」
そう言い切った風歌は格好良かった。


