「時雨?時雨、部屋の前につっかけ棒なんかつけて。誰にも入られたくないなら中じゃないと意味ないでしょう?もう、お母さん、入るわよ?」
全国につっかけ棒を部屋の前にかける引きこもりがいるだろうか。いや、いるわけがない。
中にやりたいのはやりたいのだが、棒状のものを何も持っていない。
「時雨?」
母親は、包丁を持っていた…
「っ!」
夢…?
何も変わったところはない。相変わらず、外にも出られない。
「起きた?」
適当な母親の声。
扉の向こうから聞こえてくる。
「疾風くん来てるわ。通していいかしら?」
相変わらず、雑な言い方だ。
「ぁ、うん。」
でも、テストのこと以外で向こうから話しかけるなんて何ヶ月ぶりだろう?
「つっかけ棒外しておくわ。扉の前に置いておくから。」
あたしは適当に返事をして、ベッドの周りのカーテンを閉める。
やることがなかったから、ベッドの上でお菓子食べたり、ゲームしたりしてたから、くちゃくちゃだ。
「しぃ、お前、倫に恨みでもあるのかよ?」
倫先輩に恨み?
あるわけがない。
あんなにいい先輩はいない。
「風歌が、お前が倫に襲われたって言いふらしてんだよ。で、肝心のお前いないし。」
あたしはやっとわかった。
今朝感じていた、違和感を。