「ありがとうございましたー」


 カランカランとベルを鳴らしながら、お客様が帰っていく。
 店内にはこのカフェの従業員だけが残っている。


「ふぅ、一息落ち着いたかな?」

「5時半だし、もう客来ないんじゃねぇ?」

「んー。じゃあ少し早いけど、閉めますか」

「そうしましょか」


 従業員の一人、柊は外に出してある看板を仕舞いに外へ出て行く。
 もう一人の従業員、堂本は箒を手に持ち、店内の掃除をし始めた。
 外で柊が看板を持ち上げようとしたその時、店内から「あー!」という大きな声が聞こえた。
 何事かと思い、看板を持って中に入っていくと、堂本が2番テーブルの奥のイスを指差していた。


「何? どったの?」

「コレ見てみろよー。さっきのお客さんの忘れ物」


 指の先にあったのは、可愛い犬の形をした小さなストラップ。さっき帰っていったお客さんの忘れ物らしい。
 堂本がそのストラップを手に取り、小さな声で一言「かわいー」。


「え、あんた可愛い物好きだっけ?」

「何だその『似合わない』って顔は。失礼だなお前。俺でも可愛いって言うんですー」

「あーはいはい、すんませんしたー。で、どうするよ、これ」


 「棒読みじゃねえーか」という堂本のツッコミをスル―して、話を続ける柊。


「保管しておいて、さっきのお客さんがまたカフェに来たらその時に渡すしかないよね」

「その方法が一番だな。まぁ、さっきのお客さんがこのカフェを気に入ってくれてたらの話だけど」

「おっと、悲しい事を言いますね堂本さん、って自分でヘコんでんじゃないよ」


 自分で言った事が地味に突き刺さった堂本。


「柊さん慰めてー」

「さぁて片付けましょうか」


 慰めてもらおうと柊に抱き着きに行ったが、完全に避けられキッチンへ逃げられてしまった。
 逃げた柊は陽気に鼻歌を歌っている。


「澪コノヤロー」

「昂一も早く片付けてよ」

「……はい」


 柊の一喝で、漸く堂本も片付けをし始めた。




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