死を待つ場所


声を大きくして人は言わないが、ここはそういう場所だ


8歳だった俺は、初めてここに来た


母がここに居るから


父は幼い俺の手を引いて病棟によく訪れていた


今では俺しか通うことはないが


シャープなシルエットの赤い一輪挿しに今日の花を一輪いける


数年前から俺の日課になっている事だ


なるべく色々な花を持って来るようにしていた
野に咲いた花でも、目に留まれば摘んできた


秋のうららかな朝陽が射し込む


ふと、風を部屋に入れようと窓を開いた


カーテンが微かに揺れる


パチリと瞬く


鼻先を黒と青の蝶が飛んでいく