吸血鬼の眠る部屋

 


丘の麓で少年と少女が別れた。


「じゃーな」


「うん、バイバーイ。またねー」


そんな普通の挨拶を交わして、お互いに手を振りながら離れていく。


坂を登り丘の上へ行く少女の姿を、少年は丘の下から眺めていた。


名残惜しそうに。




蒼はポケットから携帯を取り出した。


「今、ターゲットが一人に――」


宵春に連絡をしているらしい。


宵春と美月が合流したら、狩りが始まる。


――そのはずだったのに。




「美月? ……待て、落ち着け。ちゃんと説明しろ」


蒼の声音が変わった。


携帯からは美月の声が響いている。


《だから! 宵春が倒れて! 助けて!》


嗚咽混じりの悲鳴に近い声だった。


尋常ではない。


「どこにいる?」


《クラブのビルの裏! 蒼! 宵春痛そうだよ、助けて! 早く!》


「わかった。すぐに行く」


蒼は通話を切ると、説明もなくわたしを両腕で抱え上げた。


いつかもされた、お姫さま抱っこだ。


「飛ぶから、掴まっていろ」


わたしの返事を待たず、蒼の体がふわりと浮き上がる。