吸血鬼の眠る部屋

 


「いっ……いてえ!」


腕を掴まれる青年が叫んだ。


よく見ると、蒼の爪がギリギリと彼の皮膚に食い込んでいる。


ぱっとわたしの腕が開放されたと同時に、彼の腕から蒼の手が離れた。


「んだよ、彼氏連れなら先にそう言えよな!」


「行こーぜ」


「つまんねーの」


捨て台詞を吐いて、青年たちはそそくさと目の前から去っていった。




「――なにをしてるんだ、お前は」


先ほどまでの冷えた笑顔を表情から消して、蒼は呆れたようにわたしを見る。


「えっと…ごめんなさい」


「さっさと行くぞ」




蒼がわたしの肩に手を回し、再び足を踏み出す。


引き寄せられて蒼にぴたりとくっついたまま、わたしも歩き出した。


肩に重みと体温を感じる。


いつも蒼が吸っている煙草の匂いも。


「俺から離れるなよ」


耳元で囁かれる。


馬鹿みたいに顔が熱くなったから、蒼に見られないように俯いた。