吸血鬼の眠る部屋

 


少年を見失わないよう気を付けながら、人びとでごった返す通りを歩いていると。


「――――!?」


突然、腕を掴まれ引っ張られた。


「ねえねえ、今ヒマ?」


「え、え?」


唖然として立ち尽くすわたしの前には、見知らぬ青年たちが立っている。




「君かわいーね。俺らと遊びに行こうよ、洒落た店知ってっから」


「俺らもヒマでさあ、あっカラオケにする? あの店スゲー安いよマジで」


「いえ、あの…」


「金とかはいいから、奢るし。どんどん飲んでいーよ。行くっしょ?」


ヘラヘラと笑う青年たちに口々に話されて、わけがわからない。


そうこうしている間に、蒼の姿が人混みの中に消えていってしまう。


「いっ――行きません!」


「遠慮すんなって、ほらー」


掴まれている腕を、更にぐいぐいと引っ張られる。


何とかその場に踏ん張るけれど、怖くて泣きそうになった。




「――おい」


背後から、蒼の声がした。


蒼の長い腕がぬっと伸びて、青年の腕を掴まえる。


振り返ると、蒼は微笑んでいた。


「こいつ、俺の女なんだけど」


鮮やかに笑う美しい顔、けれど瞳と声は酷く冷たい。