青年の背中に腕を回して、必死に恐怖に耐える。
色んな方向から風がびゅうびゅうと体にぶつかってきて、苦しい。
下に落ちているのか上に昇っているのかわからない。
乗ったことはないけれど、もしかしたらジェットコースターってこんなものなのかもしれない。
数分経つと、少しずつスピードが落ちてきた。
空気の圧迫感が薄れてきて、わたしはやっと目を開く。
「わ…あ――」
小さな星がいくつも散らばった、深い紺色の空が広がっていた。
大きな満月がぽかりと浮かんでいる。
綺麗だ。
視線を下に移すと、街の灯りが遥か遠くに見えた。
青年はわたしを抱え、空を駆けている。
比喩じゃなく、本当に宙に浮かんでいるのだった。
「……あなたは死神なの?」
わたしの魂を迎えにきたんだろうか?
青年はわたしの顔に目を向けた。
形のいい薄い唇の端がくっと上がる。
「いや、吸血鬼だ」
