「あたしも『狩り』に行く」
美月がそう言い出したのは、ある日の晩のことだった。
スツールに座り新聞を読んでいた蒼と、携帯ゲーム機で遊んでいた宵春が顔を上げる。
カウンターの奥でコーヒーを入れていたわたしは、反応に困って息を潜めた。
静まり返った部屋の中で、もう一度美月が口を開く。
「明日、狩りに行くんでしょ? あたしも行く」
「駄目だ」
蒼が却下した。
「どうして?」
「どうしても」
「…なにそれ。納得できない」
「ワガママ言うな」
新聞を折り畳む蒼は、淡々とした声で告げる。
「ワガママなんて言ってないっ」
逆に美月は感情的だった。
不安定な焦燥感が声と表情に露出している。
辛いのだと思う。
蒼と宵春とわたしが狩りに行っている間、彼女は一人ぼっちで部屋に残されているのだから。