食事が終わった後、宵春と美月はそれぞれの部屋に帰っていった。
蒼はカウンターの内側に入り、自分のコーヒーの準備を始める。
スツールに腰掛けてグラスに入った血液を飲んでいたわたしは、身を乗り出して蒼の手元を観察した。
『シュエットオリジナルブレンド』と印字された袋から、焙煎済みのコーヒー豆を取り出す。
それをミルに入れ、ハンドルを回して挽いていく。
ペーパーフィルターをセットしたドリッパーに挽いた豆を入れ、少しのお湯をポットから注ぐ。
カップにもお湯を入れ、温めておく。
「――なんだ?」
蒼がわたしに視線を向けた。
「えっと…コーヒーの入れ方を覚えようと思って」
蒼は再び作業に戻り、蒸らし終わったコーヒー豆にお湯を優しく回し入れる。
「なにかあったのか?」
「別になにも――」
蒼や宵春や美月とこれからも一緒に生活していくなら、色んなことを覚えたほうがいいと思っただけだ。
料理やコーヒーの入れ方、掃除洗濯買い物。
大したことではないけれど、毎日の暮らしには欠かせないことを。
日宇良さんの元には帰れないから。
わたしはこの吸血鬼の部屋で、彼らの一員として生きていくのだ――。