吸血鬼の眠る部屋

 


どうして?


どうしてこんなところに?


もう一度、そっと覗く。


日宇良さんは少し汚れた白い長袖シャツを着ていた。


ベージュ色のスラックスを穿いた足がゆっくりと前に進んでいる。


林の奥に向かっているようだった。




わたしはボコボコとした幹の表面に指を立てる。


手が震える。


どうしよう、日宇良さんだ。


本当に日宇良さんがいる。


――会いたい!




目頭がじわじわと熱くなる。


名前を呼んで日宇良さんの元に走り出したい衝動に駆られる。


きっと心配しているだろう。


もしかしたら、わたしを探しにきたのかもしれない。


でも――。


吸血鬼のわたしが、日宇良さんの元に戻っていいのだろうか?