吸血鬼の眠る部屋

 


「ひ……っ」


ふわんと体が宙に浮いた。


一瞬クラッと目眩がして、奥歯を噛み締めながらおそるおそる目を開ける。




わたしの体は青年の両腕によって軽々と抱えられていた。


お姫様抱っこ、だ。


「あ、あの」


至近距離まで迫った黒い瞳に戸惑って、金魚みたいに口をパクパクしてしまう。


「黙ってろ」


青年はわたしを抱えたまま、窓枠に片足をかけた。


「え、え?」


「落ちたくなかったら掴まってろよ」


まさかまさか、嘘でしょ?


わたしは慌てて青年のシャツを掴んだ。


「ま、待って。ここ三階――」


「待たない」


直後、青年の体にぐっと力が入って。


わたしの体は青年と一緒に、窓枠の外に飛び出してしまった。




信じられない――――!