吸血鬼の眠る部屋

 


殺す。


殺される。


まるで獣だ。


マスターは洗い立てのカップのソーサーを丁寧に拭く。


「お口に合います?」


「あ、はい。美味しいです」


「それはよかった」


湯気の向こうの微笑み。


こんな優しい雰囲気のお店が獣の世界に繋がっているなんて、誰が信じるだろう。




宵春は大きな背中を反らせて、暢気に欠伸をする。


「ふあーあ。――なんか眠くなってきた」


「そろそろ帰るか」


店内の時計は午前4時半を指していた。


わたしたちはカウンター席から立ち上がる。




「咲夜子さん、またいらしてくださいね。あなたのような可愛らしい方なら、大歓迎ですから」


「僕らは?」


「私は女性のお客様を増やしたいんです」


蒼がマスターを軽く睨む。


「人間のくせに吸血鬼にまで色目使ってんじゃねえよ」


「吸血鬼だろうとなんだろうと、女性には代わりないじゃないですか」


スキンヘッドを傾けて、マスターはニッコリと笑う。


蒼はムッと表情を歪め、宵春は可笑しそうに肩を竦めた。