吸血鬼の眠る部屋

 


目的の喫茶店は小さく、昔ながらのレトロな造りをしていた。


扉を開けると、カウンターの奥でマスターが微笑む。


「いらっしゃいませ。あ、今日は咲夜子さんも来てくれたんですね」


「はい。お邪魔します」


カウンターに座ったわたしたちにメニューを差し出しながら、マスターは笑みを深くする。


日宇良さんみたいな笑い方だと思った。


優しい大人の笑い方。




「で、依頼はこなしてくれました? 今日の指定でしたが」


「ああ。飲み屋の通りで殺してきた」


「ご苦労様です。遺体の処理に向かわせますね」


蒼とマスターはごく自然に、落ち着いた声でそんな会話をする。




わたしは平静を装おうとして、でもそれが上手くできないでいた。


喉に小石が詰まるような感覚。


宵春と肩を組んだ赤ら顔の男性が頭に浮かぶたびに、体が震える。


「報酬です」


マスターが蒼に札束の入った封筒を手渡した。


――あれが、あの男性の命の値段なのだろうか。