吸血鬼の眠る部屋

 


これから喫茶『シュエット』に行って仕事の報告をするのだと、宵春は言った。


「僕らは適当に獲物を狩ってるわけじゃないんだ」


人間が人間の殺害をマスターに依頼し、マスターがそれを吸血鬼に仕事として回す。


「そして僕らはターゲットを殺して、ついでに血液も頂くってわけ」


狩りがビジネスとして成り立っている。


アンダーグラウンドな世界だ。




「このストリートに店あるんだけどね。まあ、咲夜子は一人で来ちゃダメだよ」


蒼との相合い傘の下で、わたしはうっと声を詰まらせる。


見た目はシャッターばかりの寂れた商店街だ。


ちらほらと営業している店はあるものの、活気はない。


まばらに佇む人々は皆一様に暗く重い雰囲気を背負う者ばかりで、話し声も聞こえてこない。


まるで誰かと会話する気力すら失ってしまっているみたいに。


そして通り過ぎるわたしたちを、どんよりと濁った目で眺めている。




「その辺の奴と目を合わせるなよ」


蒼が硬い声で言う。


なんだか怖くて、わたしは彼の腕にしがみついた。