吸血鬼の眠る部屋

 


宵春は一人の男性に声をかけた。


顔を真っ赤にして地べたに座り込み眠っている、中年の男性だ。


肩を揺すって起こし、笑顔で何やら言葉を交わして、二人で肩を組んで歩き出す。


「あの人は知り合い、なんですか?」


「いや」


仲良さそうに会話しながら歩いていくから、てっきりそうかと思ったのだけれど。


「あいつは警戒心をなくさせるのが上手いから」


俺には出来ない、と蒼は呟いた。


宵春の向日葵のような明るい笑い方を見て、なるほどと思う。




わたしと蒼は、二人と距離を取りながら歩く。


見失わないように、けれど男性に気づかれないように。


やがて二人はビルとビルの隙間の細い道に入っていった。




「ここで待つか」


その細い道の手前で、蒼が立ち止まった。


「あの、わたしは――」


「ここで立っとけばいい。この道に誰かが来ないように」


宵春と男性が入っていった道の先は、暗い。


わたしには二人の姿は見えなかった。