吸血鬼の眠る部屋

 


宵春の後についてアパートから出ると、階段の下に蒼がいた。


「どーよ。ターゲットちゃん、いた?」


「ああ。――結構近いな。歩いていくか」


「雨の日は飛ぶのメンドイもんなー。明日だったらよかったのに」


「今日の指定なんだから仕方ないだろ」


わたしにはわからない会話をして、二人が歩き出す。


わたしはそのすぐ後にくっついて行った。


夜の雨の中、三つのビニール傘が揺れる。




わたしは緊張していた。


この町に連れてこられから初めての外出だったし、しかも『狩り』が目的だ。


緊張しないわけがない。




「あ。あの空き地、工事始まるらしーよー」


「やっとまともな映画館が建つか」


「いやいや、でっかいゲーセンでしょ! ゲーセン来い!」


「家のゲーム機で十分だろ」


「そっちこそレンタルDVDで満足しとけばいいじゃん!」


蒼と宵春はこれから人を殺しに行くとは到底思えない雰囲気で歩いている。


普通の散歩だと錯覚しそうだ。