吸血鬼の眠る部屋

 


二人は苦労して、わたしと美月の部屋に大きな荷物を運び込む。


ベッドの端に腰掛けて買ったばかりの本を読んでいた美月は、迷惑そうに口を尖らせてリビングに行った。


「――じゃあ、組み立ては自分たちでやってくださいね」


「ああ。悪かったな」


「いえ、配送ぐらいはサービスの内ですよ」


マスターが仏のように微笑んで、額に滲んだ汗を拭う。




「あなたが咲夜子さん、ですね? 新しい仲間の」


急に話を向けられて、わたしは目を見開いた。


この人も吸血鬼なんだろうか?


「よかったらあなたも私の店に来てくださいね」


「は、はい」


『夜の喫茶店 シュエット』と書かれた名刺を渡される。


「蒼さんと宵春さんはよく来てくれるのに、美月さんは来てくれなくて――」


「あんな物騒な場所、女がふらふらと行けるわけないだろ」


「そうそう。咲夜子も行っちゃダメだよー?」


「いえいえ、私の店は安心安全ですよ。少し立地が悪いだけで」




是非来てください、お待ちしています。


そう念押しして、マスターは部屋から出ていった。


軽トラックに乗り込んで、夜道を走り去っていく。