吸血鬼の眠る部屋

 


空が白みはじめてきた頃に、蒼と美月が別々に帰ってきた。


美月は本屋の紙袋を持って。


蒼は大きな荷物を荷台に乗せた軽トラックに乗って。


「あ、マスターだ」


宵春とともに軽トラックから出てきた見知らぬ人を指して、宵春が言う。


「ほら、あの男の人。あれがマスターだよ」




マスターは柔和な表情をしたスキンヘッドの男性だった。


30代前半だろうか。


白いシャツに黒いベストを着用し、黒いスラックスを穿いている。


執事のコスプレをしたお坊さんみたいだ。




蒼はマスターと一緒に、荷物をトラックから降ろして運び始めた。


その重さでアパートの鉄階段がギイギイと悲鳴を上げる。


「宵春さんも手伝ってくれませんかー?」


マスターがこちらを見て声を掛けたけれど、宵春はぺろっと舌を出した。


「ごめーん。僕、箸より重いもの持てないの☆」


「死ね」


少し汗をかいた蒼が、間髪入れずに宵春を睨み付けた。