吸血鬼の眠る部屋

 


そしてもっと信じられないことは。


『それ』を飲みたい、とわたしが思っていることだった。




「飲め」


蒼に言われるまでもなく、わたしはグラスを手に取った。


磁石のように引き寄せられる。


人間の血液だとわかっているのに、酷く美味しそうに見えるから。


理性では抗えないくらいに。


こく、こく、とゆっくり喉に流し込む。


とろとろとした液体は少し飲みにくく、けれど口中に広がる甘美な味に自然と体が震えた。




蒼と宵春と美月がじっと見守る中、わたしはグラスの中身を飲み干した。


頭がクラクラする。


「刺激が強いんだよ。慣れないうちは多く飲まないほうがいいね」


額を手のひらで押さえたわたしに、宵春が言う。


「――もう立派な仲間だな」


蒼は綺麗に口角を上げた。