「ごちそうさまでした」
箸を置いて手を合わせる。
「え、もう終わり? うっそー全然食ってないじゃん!」
宵春は大袈裟に驚いてみせる。
確かにわたしは一般的な女性よりは食べていないかもしれないけれど、それ以上に宵春の食べる量は多すぎる。
ばくばくむしゃむしゃ。
大きな口がひっきりなしに動いて、食べたり飲んだり喋ったり忙しそう。
なるほどこんなに大きな体になるわけだ、と思った。
――コンッと音が鳴る。
蒼がわたしの前にグラスを置いたのだ。
「これ…」
「お前の分だ」
「……」
緑色に濁ったグラスの中には、血液が入っていた。
――どうして?
それから発せられる独特の香りにまで甘さを感じている自分に気づき、わたしは言葉を失う。
バニラのような匂いがするのだ。
ケーキやクッキーからふんわりと漂う、甘い甘い、少女趣味な香り。
わたしはどうやら嗅覚までおかしくなってしまったらしい。
