吸血鬼の眠る部屋

 


――――ごく、り。


血が喉を通り抜ける。


それを確認した蒼が、わたしの息を奪っていた唇をゆっくりと離した。




「あ――」


飲んでしまった。


とうとう飲んでしまったのだ、人間の血を。


わたしは唖然としたまま蒼の顔を見上げた。


「よし、飲んだな」


蒼はわたしの手首を解放して、血濡れたままの唇を弧に描く。


綺麗だ、と思った。


完璧に美しく形作られた、悪夢のような淡い微笑み。




血液はほんのりと熱を持って、わたしの体中を真っ直ぐに降りていく。


グラグラと脳が揺れだすのがわかった。


「……いや…ぁ」


吸血鬼になりたくない。


震える手で蒼の服にしがみついた瞬間、意識が途切れた――。