「――――咲夜子」
突然、暗闇の中に声が生まれた。
ビクッと体が震えて、手から包丁が滑り落ちる。
包丁は大きな音を立てて、床の上を転がった。
「お前、何してるんだ?」
いつからそこにいたんだろう?
リビングの闇の中から、蒼の黒い瞳ががわたしを見ていた。
蒼は長い足で素早くキッチンに入り込み、わたしの手首を掴む。
「い、や――!」
そのまま床に押さえ付けられて、わたしは泣きそうになりながら声を上げた。
カンッと音が響く。
床の上の包丁を、蒼が蹴ったのだ。
「死ぬ勇気もないのに、自殺志願者ごっこか」
「……っ」
彼の嘲るような台詞は的確で、わたしは言葉を返せない。
「――ったく。面倒な女」
