吸血鬼の眠る部屋

 


まな板の上に置かれていた包丁を手に取ると、手のひらにじわりと汗が滲んだ。


――怖い。


手首に刃を添えてみる。


――怖い。


酷い緊張で足がガクガクと震える。


――怖い。


けれど人間でなくなるのが嫌ならば、こうするしかない。




コチ、コチ、コチ。


壁時計の規則的な秒針の音が、静かな室内ではよく響く。


その音が、時間が過ぎていくことをわたしに教える。




どうしよう。


わたしは包丁を手首に押し付けたまま、動けなくなっていた。


怖いのだ。


ここに連れてこられる前から死ぬ時を待っていたはずなのに、怖くて怖くて、手が動かない。


切りつけた時の痛みとか。


血を失っていく苦しさとか。


死んでしまえばどうでもよくなるそれらを、どうしても考えてしまう。