不意にペタペタと軽い足音をさせて、美月がカウンターキッチンに入り込んだ。
「――咲夜子がここに住みたくないって言うなら、それでもいいじゃない」
細い手が包丁を握る。
「殺してしまえばいいだけなんだから」
美月は無表情だった。
なんの感情も見せず、淡々とした声音でそんな物騒なことを口にする。
「逃げるなら殺す。ここを知られて、帰すわけにはいかない」
脅すために作られた冷酷な蒼の声。
「逃げないよね? ねえ、咲夜子」
あくまで明るい、怖いくらいに明るい宵春の声。
「一緒に暮らそう? 僕らは仲間なんだから。きっとすっごい楽しいよー」
子供のような無邪気さで笑いながら、わたしの命を人質にして脅迫する。
こんなことができるのも、吸血鬼だからなのだろうか?
「は、い…………」
わたしは項垂れて返事をした。