「――ストップ。蒼、怖がらせ過ぎだよ」
パンパンパンッ。
手を打ち鳴らす音が、室内に高く響いた。
「ほらー。咲夜子、泣いちゃったじゃん。可哀想に」
宵春は蒼の肩を掴んでわたしから引き剥がし、こちらにニッコリと笑みを向けた。
ジロリと蒼に睨まれても、宵春の表情は少しも変わらない。
「は……っ」
全身の強ばりが一気に解ける。
急激に息が肺に入り込んで、わたしはその場で激しく咳き込んだ。
宵春がわたしの隣に腰を下ろす。
「でもまあ、これでわかったよね? 人間じゃないモノってのが存在するってこと」
わたしは何も言えなかった。
蒼はすでに初めて会った時と同じ姿に戻っている。
紅い瞳は黒くなり、尖った牙は消えて、その姿は普通の人間と変わりがない。
「でも安心して。僕らは仲間だから、咲夜子に危害は加えない。君はまだ自覚できてないみたいだけど」
わたしは床を見つめて、ただ話を聞く。
何をどう考えればいいのかもわからない。
