吸血鬼の眠る部屋

 


蒼が身を屈め、ソファに座るわたしに近づく。


「ひっ」


わたしは足を抱え込み、背中をソファの背凭れに押し付けた。


――怖い。


それなのにどうしてか彼の紅い瞳から目を反らせない。


「俺が人間に見えるか?」


そう言った蒼の口から、長く尖った白い牙が覗いた。


さっきまではなかったはずの、肉食獣のような鋭いそれ。


頭の中で危険を知らせる警戒音が鳴り響く。




『これ』は人間じゃない――。




蒼が口を大きく開き牙を剥き出しにして、わたしの上に乗りかかってくる。


彼の体重を受けたソファが、ギシッと軋んで小さく音を立てた。


綺麗に整った顔がじりじりと近づき、金縛りにあったように動けないわたしの首筋に歯を立てる。


「や……」


抵抗を示すために発した声は、自分でもわかるくらいに弱く震えていた。


蒼は目を細めて笑う。


彼のくすぐるような吐息を首に感じた時、わたしの目から涙が零れた。