吸血鬼の眠る部屋

 


そんなの素直に受け入れられない。


「匂いって言われても…。変ですよ。吸血鬼とか、仲間とか」


受け入れられるわけがない。


吸血鬼はファンタジーな世界のもので、現実に存在するなんて話は聞いたことがない。


「そんなの――いるわけないじゃないですか」


それが『常識』のはずだ。




――部屋の空気が変わった。


ドアの傍にいた蒼が、足を踏み出す。


美月が彼のTシャツの裾を軽く引いたけれど、それを振り払ってソファまで歩いてくる。


「……人間に育てられるとこんな鈍感馬鹿になるのか」


蒼のピリピリとした空気を孕んだ視線がわたしを見下ろした。


その目が。


瞳の色が、血のように紅い。




わたしは声も出せずに息を飲んだ。


全身がカタカタと細かく震え出す。


蒼の瞳は、さっきまでは確かに黒曜石の色をしていたのに――!