吸血鬼の眠る部屋

 


廊下にはいくつかのドアがあり、突き当たりのドアを開けると12畳ほどの空間になっていた。


薄い水色に塗られた壁と焦げ茶色のフローリングを、天井からぶら下がる裸電球が照らしている。


隅にあるカウンターキッチンには洒落たスツールが並べられ、そこだけバーのような装いだ。


青年は大きな窓に面したL字型のソファに、わたしの体をゆっくりと降ろした。




やっと解放された…。


それなのに、離れていく体温に少しだけ寂しさも感じる。


ほんの少しだけ。




「『あいつ』は?」


青年が宵春さんに問いかける。


「部屋。寝るって言ってたけど、起きてんじゃない? まだ日昇ってないし」


「呼んでこいよ」


「やだ。僕、咲夜子と一緒にいるしー」


「…………」


青年は不機嫌そうにチッと舌打ちをして、リビングを出ていった。


舌打ちをされた宵春さんはそれを全く気にすることなく、緩く笑んでわたしに目を向ける。


「あいつ、蒼っていうんだ。ごめんねー自己紹介もできない無愛想野郎で」


「蒼さん…ですか」


「あー、さん付けしなくていいから。僕のこともね」


「え。は……はい」


「仲間なんだからさー、フレンドリー且つフランクにいこうよ。これから共同生活するんだし」


「――――え?」