始業式を終えて各自が各々の教室に向かっている中、紫苑はため息をもらしては音楽室にいた。
始業式には参加せず朝からずっとここにいたようで、鞄を肩にかけては音楽室を立ち去った。
その足で自分のクラスとなった『2ーB』の教室へと向かう。
案の定、廊下には担任となった体育教師の小笠原 義一(オガサワラ ヨシカズ)が仁王立ちで待ち構えていた。
その姿に紫苑がため息をもらし、小笠原の怒りを買ったのは言うまでもない。

『霧島…始業式に参加しないで今頃来るとは何事だ』
『急いできたつもりです』
『ほぅ…のんびりと歩いていたのは俺の見間違えか?』
『…走ってきたに決まってるじゃないですか…あぁもう足が痛ーい、動けなーい』
最後のほうはあきらか棒読みでわざとらしいが、小笠原はため息をついては紫苑を教室に入れた。

紫苑は教室に入ると黒板に記された出席番号を見ては席に向かう。
廊下側の前から3番目という良くも悪くもなんともいえない席となった。
隣の男子に視線を向けると相手は口を開けて固まっていた。
紫苑は自分の顔になにかついているのかと手鏡を手にするが、特になにもないのを確認すると相手の目の前に手をかざした。
『人のことジロジロ見ないでくれる?』
『あ……ご、ごめん…知り合いによく似てたものだから…つい』
そう女の子みたいな笑顔を向けてくる相手に、紫苑はどこか見覚えがある気がしたが、小笠原が教室に入ってきたことにより考えることを一時止めた。

軽く自己紹介をすることになり男子から順に始まった。
そして隣の男子の番になり、紫苑は俯かせていた顔を上げた。
『えっと……篠宮 雀です。1年生の時は学校に来ていなかったので…皆さん初めましてだと思います。1年間、よろしくお願いします』
そう最後にまたあの笑顔を向ける。
すると後ろから女子たちが『カワイイ』と騒ぎだした。
その声に紫苑もつい頷いていた。