紫苑の祖父『孝三郎』は何に対しても完璧を求め追求する厳しい人間だった。
『何をやるにも完璧にこなせ』
それが口癖だった。
紫苑が霧島家に迎え入れられた最初の頃に、孝三郎は紫苑に何かやりたいことはあるか、と、尋ねた。
そこで紫苑は幼い頃から続けていたピアノを、またやりたいと答えた。
父の事件でピアノから離れた暮らしを強いられ、紫苑もそれだけが心残りだった。
それを聞いた孝三郎は屋敷にピアノの練習場と家庭教師を紫苑に与えた。
そうして技術を磨いた紫苑は数ヶ月足らずで数々のピアノの大会で優勝し、『神童』と呼ばれるようになった。
でもそれは、紫苑を苦しめる鎖となるだけだった。
周りの期待、祖父の止まらぬことない完璧への追求…
それらが紫苑を苦しめ、ついに彼女はピアノの練習や大会に出ることを止めた。
孝三郎はそれを知り怒鳴りちらすも、紫苑は意地でも人前で弾かないの一点張り。
それ以来2人は口をきかなくなった。
用がある時は執事の山田を通じてのため、お互い顔をあわせることすらない。
それはそれで困ることはなかったのだが、霧島家の当主に孫娘がいることが財界人の間に知れ渡り、なにかと理由をつけてはパーティーやピアノの大会の招待状が紫苑の元に送りつけられた。