『ただいま……』
玄関に入ると何十人もの使用人たちが紫苑を出迎えた。
『お嬢様、おかえりなさいませ』
燕尾服を着た老夫が手早く紫苑の鞄とブレザーを受けとると、紫苑宛に届いた手紙や招待状の束を手渡した。
それを見てはあきらか怪訝そうな顔をする紫苑に老夫はため息をつく。
『お嬢様のお嫌いそうなものは除きました。そこから選別してください』
階段を上がりながら紫苑は招待状に目を通していく。
『…どれもくだらないわ。山田、捨てておいて』
そう山田と呼んだ老夫に束を放り投げる。
『お嬢様……いい加減パーティー等に出席されないと、旦那様に叱られますよ』
ため息をついては束を受け取り、紫苑の部屋の扉を開ける。
『お祖父様がなによ…いつもいつも頭ごなしに怒鳴り付けて……あんな人大嫌い』
そうベッドに身体を投げ出す。
『お嬢様。確かに旦那様は厳しい御方ですが、それもこの霧島家を守るためでありまして…』
『お父様の事件でとっくに霧島の名は終わってるわよ!!』
そう紫苑が叫ぶと山田は目を伏せた。
『……出ていって。お願い1人にして……』
そう紫苑が震える声で言うと山田は一礼すると静かに部屋を出ていった。

紫苑の父『孝文(タカフミ)』は1年前に事件を起こしてしまい自分の会社を倒産させた。
それにより追い込まれた孝文は自殺。
その頃、孝文の実家と紫苑たちは疎遠しており紫苑の母『夏海(ナツミ)』は、資産家である霧島家にすがる想いで助けを求めた。
夏海の両親はすでに亡くなっていた為、頼れるのは霧島家だった。
こうして裕福に暮らせることとなったが、事件を起こした男の妻というレッテルに耐えきれなくなった夏海はとうとう自ら命を絶った。
取り残された紫苑は祖父とこの大きな屋敷に2人で住むこととなった。